6時30分起床。地下鉄を乗り継いで牛込箪笥区民ホールに着いたのは8時25分だった。入り口で紫煙を燻らせ、鈍いアタマにニコチンで刺激を与えているとS嬢があらわれた。本日の当ホール抽選担当者2名がそろった。S嬢は連絡係、クジを引くのはオレだ。9時までに会場の部屋に入れと手引きにあるが、ドアを開けるとまだ誰もいない。見かねた若い職員に和室に通された。畳に転がりながらS嬢の家庭の悩みなどを聞き流す。フン。
同時刻、Uは寝惚けマナコで歩道のごみ箱を蹴飛ばしながら四谷区民ホールへ急いでいた。相棒のAはすでに会場にいた。
同時刻、ラッパのSとトロンボーンのIは角筈区民ホールの抽選会場で、R2D2とC3PO(スターウォーズ参照)のように笑えぬオヤジギャグを飛ばし合い、抽選を待っていた。
さあ、抽選3チームの揃い踏みである。
9時。牛込箪笥ホールの会場のドアが閉まり、職員が説明を始めた。3分経過。とつぜんドアが開き、中高年のご婦人が顔を出して、「まだいいですかぁ」と間の抜けた声を上げた。5人目である。たったの5人(組)!
すでに職員が数字の書かれている小さな玉をカゴの中に4個入れていた。ガラガラとカゴを回し、出てきた玉の数字順に日時を押さえていくという寸法である。遅刻したご婦人のために5番目の玉が入れられた。
いよいよ抽選である。オレたちは8時半から来ていたのだ。とうぜん1番目にカゴを回すのだ。5人なら楽勝じゃんかよぉ。張り合いがないなあ。他の部屋もとっちゃおうかぁ、などと二人は根拠なく熱狂してオダを上げていたのだ。
どおれっ、とオレはカゴを回す。なかなか出てこないなぁ。ガラガラ、ガラガラ。お、出た。
ゲッ! 5番じゃないか。あの遅刻オバさんの玉じゃないのかこれは。
5人中5番。。。
オレは激しく落ち込んだ。S嬢は突っ伏して泣きながら爆笑し、すぐに四谷のAに電話した。
同時刻。四谷のUは8番目にクジを引くことになっていた。順番が来て立ち上がると、何を思ったかUは大きく柏手をパンパンと打ち、八百萬の神に祈りをささげた。場内は息を呑み、一瞬の静寂の後、「ぷっぷぷっー」と嘲笑が広がっていった。
四谷は箱の中の数字入り紙切れを引く方式である。Uは太い腕を箱に突っ込むと、物色を始めた。何度かしっくりこない紙切れをうっちゃると、おもむろに1枚引き上げた。
「1番。。。。。フン」。どわーっ。場内は騒然。次の瞬間、Uに向かって柏手を打つ音がひっきりなしに続いた。
興奮するAのケータイが鳴る。お、S嬢か。
「くくく、ぶぶぶ。5番でした。ぎゃはは!」
「もしもし、Uが1番クジ引いちゃった。もう帰っていいよん。」
同時刻。角筈区民ホール。SとIは出番を待っていた。さあそろそろか、と腰を上げた瞬間、Iのケータイが鳴った。四谷のAからだ。
「こちら四谷。1番クジ引いたもんね。もう要らないよん」
SとIはハラヒレハレホ、と力が抜け、顔を見合わせると二人でガチョーンと叫んだのである。
この間、わずか10分である。9時15分には四谷に集合し、後光の差すUに柏手を打ち、それぞれの職場に向かったのであった。